能面を打つ会「龍樹会」

「能面を打つ(うつ)」とは、能楽で使用される面(おもて)を制作することを指します。一般的に「作る」や「彫る」ではなく「打つ」という言葉が使われるのは、その工程や精神性に由来しています。

1. なぜ「打つ」と言うのか

能面の制作において「打つ」という言葉が使われる理由には、主に以下の説があります。

  • 裏面への意識: 木の塊から顔の造形を削り出す際、表面を整えるだけでなく、裏側からも木を叩き、薄く均一に仕上げる作業(裏打ち)が重要視されるため。
  • 精神の注入: 仏像を彫る「打つ」と同様に、単なる工芸品ではなく、神聖なもの、あるいは魂を込めて造形するという宗教的・精神的な意味合いが含まれています。
  • 型を叩き出す: 荒彫りの段階で、ノミと槌(つち)を使って力強く形を叩き出していく様子からきているという説。
2. 制作の工程

能面は、主に**檜(ひのき)**を素材として使用し、数ヶ月から半年以上の時間をかけて仕上げられます。

① 木取り・荒彫り

乾燥させた檜の角材に型紙をあて、大まかな輪郭を切り出します。ノミを使って目、鼻、口の位置を決め、立体的な顔の起伏を作ります。

② 中彫り・仕上げ彫り

より細かな彫刻刀を使い、表情の微細なニュアンス(含み)を彫り込みます。能面独特の「中間表情(喜怒哀楽のいずれとも取れる表情)」はこの段階で生まれます。

③ 下地作り

彫り上がった面に、胡粉(ごふん:貝殻の粉)と膠(にかわ)を混ぜたものを何度も塗り重ねます。乾燥するたびに砥石やサンドペーパーで磨き、滑らかな肌を作ります。

④ 彩色(さいしき)

天然の顔料を用いて色を塗ります。特に「古色(こしょく)」と呼ばれる技法では、新しい面にあえて汚れや時代付けを施し、何百年も受け継がれてきたような深い風格を与えます。

⑤ 毛書き・仕上げ

眉毛、まつ毛、毛髪などを極細の筆で描き入れます。最後に、目や歯に金泥(きんでい)を塗ったり、漆で仕上げたりして完成となります。

3. 能面の持つ美学

能面には、世界でも類を見ない独特の美学が宿っています。

  • 照る(てる)と曇る(くもる): 面を少し上に向けることを「照る」(喜びを表す)、下に向けることを「曇る」(悲しみや沈思を表す)と言います。打つ(作る)段階で、光の当たり方によって表情が変化するように計算されています。
  • 幽玄(ゆうげん): 言葉では言い尽くせない、奥深く、神秘的な美しさ。能面師は、固定された表情の中に無限の感情を封じ込めることを追求します。
4. 現代における「面打ち」

現代でも、江戸時代から続く「型」を忠実に再現する「本面写し」が基本とされています。能面師は、過去の名工が打った名品(本面)を研究し、その精神と技法を現代に受け継いでいます。

参考文献・資料

  • 能楽協会 公式解説
  • 伝統工芸「面打ち」の技法書

龍樹会の舞岡教室

教室:舞岡ふるさと村 虹の家
   〒244-0813 横浜市戸塚区舞岡町2832
   045-826-0700
   ホームページ検索:舞岡ふるさと村 虹の家
主宰:
講師:亀谷治代
日時:毎月第2・4土曜 10:00〜16:00
   都合により変更あり
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初心者講座
能や狂言のお面を角材から彫って塗って仕上げることを「面を打つ」と言います。初めての方も完成まで順を追って学べます。日本の伝統文化に触れながら、彫刻・塗りを楽しみましょう。