解 説


A:グリザイユ画法シリーズ
 私のベーシック画法グリザイユの作品
 (制作年2015〜2020)


 Aコーナーの作品は、真摯に対象物(モチーフ)に向かい、筆を運ぶ描画より「光と影」の観察に長い時間をかけてグリザイユ(古典画法)で制作しました。

 明暗による遠近と空間、質感を追求。絵画制作の姿勢として「描くより観る」を教えられます。また、グリザイユ画法は油絵具でなければ表現できない漆芸に似た独特な色調が得られます。鮮やかな色調、陰影部に深みのある透明感。まさに「光と影」を表現するのには好きな技法ですので私の基本になっています。迷ったらここへ戻ってきます。

 入口の「農作業をする女」は古典画法の巨匠仏画家ブグロー作品の模写です。
  フラメンコの4点は、モデルをたてての実写ではありません。たまたま知人から頂いたフラメンコ人形を絵にしたところ、以前スペイン旅行の際感動した洞窟フラメンコを思い出し創作意欲が出ました。と言っても今や飛行機に乗れないメヌエル症ですのでスペインにも行けず、ネットから写真を拝借。背景をアレンジして4色のカラーシリーズを試みました。ダンサーの動きや骨格の表現に苦労しました。元々人物表現が苦手なので勉強になりました。なお、写真の著作権やモデルの肖像権をクリアしていませんので、あくまでオリジナルではなく私的な習作レベルです。

 ロウソクの絵から白い布までは、実際アトリエにセットして「光と影」を追いました。多くの制作時間が必要なので、動くモノや朽ちるモノはハイエンドカメラで撮影し4Kモニターに写し観察しながらの制作です。
 グリザイユ画法は、小さい作品でも下地の油層が乾いてから重ねていく彩色のうえ納得いくまで描画できるので数ヶ月を要する場合もあります。作品番号A-13.07パンとワインボトルの絵は、修正ではなく気になる点を加筆し足掛け4年ほどいじっています。そんな時間の流れも好きです。

Bouguereauの模写
「Faneuse The Haymaker」

 ウィリアム・アンドルフ・ブグロー(フランス1825〜1905)
 19世紀末フランス・アカデミズム画壇で最も活躍した画家です。同時期に台頭した印象派やキュビズム派に埋没し“芸術的評価”は今一で、死後忘れ去られていきます。彼自身は終生新古典主義による耽美的な世界を表現し続けます。没70年後の1980年代のアメリカで再評価され今や「神話、天使、少女画」の巨匠と言われています。

 模写は、テーマやモチーフ設定そして何よりテクニックのスキルアップに適したトレーニングです。まさに温故知新。原画を元に制作するのが基本ですが現実的には叶いません。最近は便利で、本模写はWikipedia掲載の高解像度画像をモニターに映しながらの制作。もちろん技法・顔料・溶油は読み切れず推測しながらの制作です。 今までの技量が問われ改めて力の無さを痛感。

制作:2020年1月8日〜3月10日
F20号727×606mm(原画は1015×810mmの油彩画)
グリザイユ画法、市販オイルキャンバス(下地にHolbein Foundation White)
顔料:ホルベイン油絵具(Extra fine、Vernet、Yuichi)
溶液:ダンマル樹脂+ターペンタイン+スタンド亜麻仁油+ヴェネツィア松脂のオリジナル混合油。



B:絵肌にこだわりのシリーズ
 自分では「白いシリーズ」と呼んでいる作品
 (制作年2018〜2020)


 油絵独特の可塑性を持ったマチュエル(画肌)を楽しんで創作。デッサンが求めるカタチや陰影・質感にあまり囚われず、ペインティングナイフで固めの油絵具を自由気ままに重ねて色面効果を求めました。

 


C:モノ言う絵シリーズ
「読み解く絵」に夢中になった
  ちょっと昔の作品
 (制作年1995〜2003頃まで)


1)衝撃と混沌1995-Ⅰ&Ⅱ
  1995年正月明けて間もない1月17日、阪神・淡路大震災発生、3月20日には同時多発テロの地下鉄サリン事件、4月9日知事選挙で青島幸男が東京都の横山ノックが大阪府の知事に。そんな衝撃と混沌と閉塞感に襲われたイメージを表現した連作。

2)七つの社会的罪
 1996年、特別養護老人ホーム認可を舞台にした汚職事件で厚生省のドン岡光事務次官が逮捕され、人品卑しいエリート官僚の報に落胆。その事件を題材に無神論者ですが、カソリック教会の傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰の「七つの大罪」と、インドのマハトマ・ガンジーが唱えた
「七つの社会的罪」
  1、理念なき政治
  2、労働なき富
  3、良心なき快楽
  4、人格なき学識
  5、道徳なき商業
  6、人間性なき科学
  7、献身なき信仰
に触発されて創作しました。

3)希求「繰り返す難民問題」
 自然災害、政治的迫害や武力紛争、人権侵害などから逃れるため国境を越える難民。最近ではグローバル化の中で国の体制が崩れ先進国へ向かう難民が増えている現実をテーマに創作しました。
 波は、解決の努力は見られるが繰り返し繰り返される現実を、光さす空はそれでも希求して止まない心情を象徴的に表現しました。
 2018年時点で世界の難民の数は7,080万人。既存の国際的保護体制では対応できず本質的解決策を求められ、新自由主義の弊害も論じられています。

4)1999-JCO〜2011-Fukushima
 制作はJCO事故をテーマに2000年に「人間がコントロールできないモノで青い地球と子供を穢さないで欲しい」をテーマに描き上げました。その後2011年の東日本大震災時の福島原発事故に触発され加筆しました。
 いずれも原発事故をテーマにしています。

 忘られつつある、JCO事故は、1999年茨城県東海村核燃料加工会社JCOが起こした日本国内初めての原子力臨界大事故のこと。被爆者667名、死者2名、重傷者1名。事故原因は、なんと管理規定マニュアルを守らず手抜きでずさんなバケツによる溶解作業。それをシンボルに表現しました。
 そして2011年3月恐怖の福島原発メルトダウン。JCO事故が活かされず安全神話崩壊。廃炉作業に今後50〜80年、費用20〜50兆円とも。噴煙を上げる原発を左上に2012年に加筆しました。
 未来のために深い知性と真理をもとめる英知のシンボルとして右に再生エネの海上風力発電を描き加えました。



D:陽光さす風景画シリーズ
 光とその色を求めてをテーマにした風景画
(制作年2016〜2020)


 油絵の風景画制作には、大気の空気感を、温度や湿度、風を表現したくなります。そんな意味で昔から雲や川、波、陽光や日陰に興味を持ち創作してきました。
 対象は特に“水”が関与した風景が好きです。水の変幻を詠った一休骸骨の「雨霰雪や氷と へたつれど とくれはおなし 谷川の水」そして、すべてが海に回帰する自然の摂理に若いとき打たれ、海・波・雲・川などを絵にしてきました。

 


E:回顧コーナー
 私の絵画の変遷をちょっと紹介
(1973〜2010頃)

 イタリア風景「港」と「オリーブ畑」の2点は、絵画を生業ではなくライフワークの起点になったと言うか分岐点の作品です。
 1973年、生業として青山に広告グラフィックデザイン事務所を持ちそれなりに活動していた頃、人生の方向性が見えずコマーシャルアートとしてのデザイン業か、それまで夢想していたファインアートとしての画業かに悩まされ、事務所をいったん閉め自分を見つめ直す旅に。ルーブルからイタリアのフィレンツェ、ベネチアなどで憧れていた西洋絵画の原画に対面。刺激され現地で油絵道具を購入し風景画を数枚制作。展示の2点はそのうちの作品。

 旅の終わりに、画家の軸は自分にあらずと帰国。好きな現実の社会とリンクするデザインが自分の生業と理解し、デザイン事務所を再スタートさせました。
 絵画創作は「描きたいときに描く。描きたいイメージが湧いたら描く」、自分のための世界としてのライフワークに決めました。また、時代性に合致した評価の極致のデザイン環境から評価アレルギーを癒すためにも、遠くのところに「自己完結の絵画創作」として置きたいと、小心の性格も合わせ公募や所属を避けて現在に至りました。

 1988年頃から、とある美術研究所で尊敬する人に出会い、絵画技法の基本を学ぶ機会を得ました。その一環でテンペラ技法や古典画法を学び、私の造形や表現の基礎になりました。

 


F:色価シリーズ
 “直感色”を求めて自由に創作した作品
(2015頃〜2020)


 カタチ(構図)は具象のモチーフから借り、彩色は色価(バルール)と重層塗り(グラッシー)の技法をもって、自分の感情に任せながら筆を運んだ作品たちです。今後、私の創作の流れになるような予感がします。
 色価(バルール)表現を突き詰めていったら、抽象表現に行くのかな? 一つのトライとして抽象画も、遊び心でイメージの広がりを楽しみに続けていきます。

 


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E:回顧コーナー
F:色価(バルール)シリーズ

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